自己確立する前の「異物混入」という通過儀礼
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●●映画『プラダを着た悪魔』
ぜひとも女性に観てほしい映画。といっても観た女性は多いだろうけど。
個人的にファッションより一人の女性のアイデンティティの確立という話の主旨がお気に入り。
どんどんファッション業界に染まって鬼上司ミランダの期待どおりの人間に成り変わっていくヒロインが、最後にジャーナリストを目指していた自分こそ本当の自分だ!って吹っ切れる。美しく着飾った華やかな女性から元の洗練されていないけどインテリジェンスな女性に戻る。
ミランダは確かに見る目があった。イモくさくても知性が取り柄のヒロインだからこそファッション業界ではその異質さがプラスになった。
面白いのが、大半の女性はファッションにアイデンティティを投影しているのに、主人公のアンディはオシャレに興味なし。センスもダサい。こういう女の子ってたまにいるね~。読書家な文学少女とか知的なタイプによくいる。ところがアンディもやっぱり女性だからか、最後の方は自分のセンスでオシャレに服を着こなせるほどファッショナブルな一面が花開いている。
けれどミランダが期待するオシャレで有能な女性に近づくほどヒロインの人間関係はギクシャクしていく。人は職業も人間関係も本人にピッタリなものがカスタマイズされているもの。一人の人間が変化すると人間関係も変化したその人に適合しようとする。つまり彼氏や友達が変化したヒロインに合わなくなるのね。
それが「成長」なら仕方ない自然の現象なのだけど、「変化」だからヒロイン自身も悩み戸惑う。これは本人が答えを出すしかないのにヒロインはいつも「ミランダのせい」と責任転嫁していた。
紆余曲折の末、最後はもちろん彼女自身がはっきり自覚した。ミランダが認める女なんかになりたくない!
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人が自己確立するには自分ではないものを否定するという通過儀礼が必要なんだな。ヒロインがファッション業界に「異物混入」しちゃったのは必然でもあった。「アナと雪の女王」みたいにこれで~いいの~自分を好きになって~♪自分を信じて~♪と本当の自分に目覚めることができたもの。
ミランダが認めるような女にはなりたくない!と開き直ったヒロインだけどラストシーンのミランダは自己確立した彼女を一人の自立した女性として認めていた。これが私!これが自分!!って自分で自分を認めた方が周りも認めてくれる。自分がある人の方がカッコイイもんね。
さて自己確立した人の次のステージは自己実現。アイデンティティを確立すると自分の天職に目覚める。ヒロインはジャーナリストという元の夢に向かって歩き始めた。その軽やかな後ろ姿はすがすがしかった。めでたしめでたし。
そんなわけで本当は一人が好きなのに、自由が好きなのに、自分にしかできない仕事がしたいのに、無理して会社に行ってますってモヤモヤして吹っ切れる勇気みたいなものを求めている大人女子にオススメの映画。だいたい会社組織を離脱して独立する人は「異物混入」という通過儀礼を体験したからこそだね。